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会議で「いつも同じ答えしか出ない」を変える:安斎勇樹・塩瀬隆之『問いのデザイン』
「どうすれば売れるカーナビを作れるか」という問いと、「どのような快適な移動体験をデザインしたいか」という問い——答えは同じテーマでも、思考の広がり方はまるで違う。
flowchart LR
subgraph NG["❌ 名詞の問い(狭い)"]
N["どんな商品を作るか?\n→ 既存カテゴリー内で思考"]
end
subgraph OK["✅ 動詞の問い(広い)"]
O["どんな体験を届けるか?\n→ カテゴリーを超えた思考"]
end
style NG fill:#fce8e8,stroke:#e53935
style OK fill:#e8f8e8,stroke:#4caf50
安斎勇樹・塩瀬隆之の『問いのデザイン——創造的対話のファシリテーション』は、「問いの立て方」が思考の幅を規定するという前提から出発し、チームの創造性を引き出す問いの立て方を具体的な手順として示す一冊だ。
1. 組織を窒息させる「固定化」
停滞している組織に共通するのは、メンバーの能力不足ではなく「認識と関係性の固定化」だ、と本書は主張する。
長年の経験が「当然こうある」という枠組みを作り、新しい視点が入る余地を失わせる。同じメンバーで同じ会議をしていると、出てくる意見も似通ってくる。これは惰性でも無能さでもなく、認識と関係性が固定した状態だ。
この固定化を解くための介入が「問い」だ。問いは、注意を向ける方向を変える。答えが変わる前に、「何を問われているか」が変わると、思考の出発点そのものが変わる。
2. 「名詞の問い」から「動詞の問い」へ
リフレーミングの具体的な技法として、本書が示すのが名詞から動詞への転換だ。
- 「どんな商品を作るか」→「どんな体験を届けるか」
- 「何の機能を追加するか」→「ユーザーの何を変えるか」
名詞の問いは対象を固定する。動詞の問いは動きと目的を問う。後者に切り替えることで、既存のカテゴリーや製品の枠を超えたアイデアが出やすくなる。
「当初の問いを疑う」ことも本書が繰り返すテーマだ。解こうとしている問いが、本当に解くべき問いかどうかを問い直すこと——これを本書はリフレーミングと呼ぶ。
3. 5つの思考のレンズ
問いの質を高めるために、本書は5つの視点を提示している。
素朴思考: 子どものような「なぜ?」で当たり前を疑う。専門知識がある人ほど、この視点を失いがちだ。
天邪鬼思考: あえて反対や皮肉な角度から見る。「これが失敗する方が良い場合は?」という問いは思考の枠を外す。
道具思考: 今ある技術や手段から「何ができるか」を逆算する。
構造化思考: 複雑な問題の背後にあるメカニズムを整理して見る。
哲学的思考: 物事の本質を突き詰める。「そもそも○○とは何か」という問いは、自明視されているものを問い直す。
これらを一人で持つ必要はない。チームの中で異なるレンズを持つ人が対話することで、思考の多様性が生まれる。
4. 会議を「工場」から「工房」へ
効率よく正解を出す場として会議を設計すると、予定調和の結論しか生まれない。本書が提唱するのは「工房(スタジオ)」としての会議だ。
工房では試行錯誤が許容される。「まだ答えが出ていない」状態を共に支えることがファシリテーターの役割になる。この状態に耐えられないと、早まった結論に飛びついてしまう。
「答えが出ない状態を、共に支え続ける力がファシリテーターの真髄」というのは、忍耐や管理の話ではなく、思考のプロセスそのものへの信頼の話だ。
5. この本が効く具体的な場面
「ブレストをしても、毎回どこかで見たようなアイデアしか出てこない」「新機能の議論が、既存製品の延長線上から抜け出せない」——こうした詰まりは、参加者の発想力ではなく、最初に置いた問いが思考の範囲を先に決めてしまっていることが多い。
本書が効くのは、その問いを立て直したい場面だ。行き詰まったプロジェクトを再始動させたいとき、いつも同じ結論に着地する定例会議を作り直したいとき、部署間で噛み合わない議論を整理したいとき——「解こうとしている問いが、本当に解くべき問いか」を疑うところから手をつけると、打ち手が変わる。
6. 向いている人・向いていない人
向いているのは、次のような立場で「問いの立て方」を武器にしたい人だ。
- いつも同じ結論に落ち着く会議に危機感を持ち、進行役としての引き出しを増やしたいチームリーダー
- 既存製品の延長でしかアイデアが出せず、発想の枠を外したい新規事業・商品開発の担当者
- 部署間の壁を越えて対話を起こしたい人事・組織開発の担当者
一方、向いていないのは、そのまま使える会議の進行台本や質問例のリストだけを求めている人だ。本書は問いそのものを立て直す考え方が軸で、フレームワークを表面的になぞるだけでは逆効果になる。ファシリテーションの実地経験が浅いうちは、哲学的思考や本質観取といった抽象度の高い議論を自分のものにするまで、相応の試行錯誤が要ることも覚えておきたい。
7. よくある誤解
「リフレーミングは言葉の言い換えテクニック」という誤解: 名詞を動詞に変える例が印象的なため、表現を置き換える小技だと受け取られやすい。だが本書が扱うのは、解くべき課題そのものを再定義する作業だ。言葉だけ整えて中身の問いが変わっていなければ、思考の範囲は広がらない。
「思考のレンズや技法をなぞれば良い問いが出る」という誤解: フレームワークが明快なぶん、手順を踏めば自動的にスジの良い問いに至ると期待されやすい。実際には現場の関係性や文脈に合わせた調整が要り、使いこなすには試行錯誤の時間がかかる。
「ファシリテーターは議論を効率よくまとめる進行役」という誤解: 本書はむしろ、答えの出ない状態を早まって閉じないこと、その未確定な時間をチームと共に支えることを、ファシリテーターの中心に置いている。
8. 読んだ後の一歩
本書の効果は、読み終えた瞬間より、明日の会議で1つ試したときに出はじめる。手頃な最初の一歩は、直近の定例会議のアジェンダを1つ選び、「〜の進捗報告」という名詞の見出しを「どうすれば〜を前に進められるか」という問いの形に書き換えてみることだ。
もう一段踏み込むなら、会議の冒頭に「そもそも、これは何のためだったか」と素朴に問う数分を差し込む。専門家同士で固まった前提がほぐれ、認識のズレが早い段階で表に出てくる。うまく回らなくても、その手応えのなさ自体が、問いの立て方を体で覚える練習になる。
筆者の体験から
「今スプリントの課題は?」と同じ問いを繰り返すだけの進行になり、出てくる意見の顔ぶれも粒度も毎回変わらないという行き詰まりを感じていた頃にこの本を読んだ。名詞の問いを動詞に書き換えるという提案は、実際にアジェンダの見出しを直してみると効果が分かりやすかった。ある回では「進捗共有」で止まっていた議題を「どうすれば使う人の作業時間を減らせるか」という問いに書き換えただけで、報告に終始していたメンバーから画面構成そのものを見直すべきという指摘が出て、タスクの並び替えではなく設計自体を問い直す議論に発展した。半信半疑だったが、この一件で初めて実感が持てた。引っかかったのは、哲学的思考のように本質を突き詰めるパートで、普段のふりかえりの時間内ではまだ使いこなせておらず、素朴な問いどまりで終わることが多い点だ。読んだだけで場の沈黙に耐えられるようになるわけでもなく、議論を早めに畳んで後から悔いた回もある。
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